「求人を出しても、人が来ない」。いわきの中小企業の経営者から、こうした声を聞く機会は少なくありません。

民間調査の帝国データバンクによると、2026年4月時点で、福島県内の企業の43.1%が、正社員が「不足している」と答えています(回答は133社。小さな調査なので参考値です)。人の悩みは、業種を問わず、多くの中小企業に共通しています。

その人の悩みを、地域の「働き口」の構造から見てみます。いわきは県内一の工業都市です。工場で働く人は何人いて、どんな事業所に集まっているのでしょうか。前回の記事では、出荷額で見ました(前回の記事)。今回は、「人」で見ます。

製造業で働く人は24,312人。県内の16%

福島県の集計によると、いわき市の製造業で働く人は、2024年6月1日時点で24,312人でした(従業者4人以上の事業所)。県全体の151,361人のうち、16.1%にあたります。

ここでいう「従業者」は、有給の役員、常用の雇用者(パートやアルバイトを含む)、出向・派遣の受入者を合計し、ほかの事業所へ送り出している人を除いた数です。事業所のある場所で数えているため、「市内で働く人」の数であり、「市内に住む人」の数ではありません。

では、いわきで働く人全体の中で、製造業はどれくらいの割合なのでしょうか。2020年の国勢調査をもとにした、市の地区別・産業別の就業者数を合計すると、いわき市の就業者は147,912人で、そのうち製造業は25,967人(17.6%)でした。およそ5〜6人に1人です。産業別では、製造業が最も多く、次に卸売・小売業(14.6%)、医療・福祉(13.6%)、建設業(12.8%)と続きます。

国勢調査は、調査の年と集計の方法が、前述の福島県の工業統計と違います。そのため、25,967人と24,312人を、そのまま比べることはできません。ここでは、「製造業は、いわきで最も多くの人が働く産業である」という点を押さえてください。

事業所の3割に、働く人の8割がいる

事業所の規模で分けてみます。

いわき市の製造業を、事業所の規模別に見る
事業所の規模別に見た、いわき市の製造業の事業所数・従業者数・製造品出荷額等
項目従業者30人以上従業者4〜29人
事業所の数32.5%(178か所)67.5%(370か所)
働く人の数(従業者)81.8%(19,878人)18.2%(4,434人)
製造品出荷額等91.3%(約9,793億円)8.7%(約938億円)

出典:福島県「令和5年福島県の工業」(2024年経済構造実態調査 製造業事業所調査 福島県版)から作成。従業者4人以上の事業所。事業所数・従業者数は2024年6月1日時点、出荷額は2023年1〜12月。

従業者が30人以上の事業所は178か所で、数では全体(548か所)の約3割です。ところが、働く人は19,878人(81.8%)が、この大きな事業所で働いています。従業者4〜29人の370か所には、4,434人(18.2%)です。1事業所あたりの平均は、大きな事業所が約112人、小さな事業所が約12人です。

出荷額の9割と同じように、働く人も、大きな事業所に集まっています。中小企業の経営者にとっての意味は、地域の製造業の「働き口」の大半が、大きな事業所にある、ということです。

業種によって、働き口の姿は違う

業種別に見ると、人が集まる場所の姿は、同じではありません。働く人の多い上位6業種です。

業種 従業者数(割合) 出荷額(割合) 事業所数
化学 3,707人(15.2%) 約2,587億円(24.1%) 37
金属製品 2,515人(10.3%) 約823億円(7.7%) 73
情報通信機械 2,440人(10.0%) 約1,669億円(15.5%) 5
食料 2,037人(8.4%) 約470億円(4.4%) 70
電子部品・デバイス 1,427人(5.9%) 約298億円(2.8%) 27
輸送機械 1,356人(5.6%) 約551億円(5.1%) 13

情報通信機械は、5か所の事業所に2,440人が集まっています。化学も、37か所で3,707人です。少数の大きな事業所に、多くの人が働く業種です。

一方、金属製品と食料は、事業所の数が多く、従業者4〜29人の小さな事業所が目立ちます(金属製品は73か所のうち56か所、食料は70か所のうち46か所)。出荷額の割合より、働く人の割合のほうが大きい業種でもあります。地域の小さな製造業の仲間が多い業種は、こちらです。

いま、採用の市場はどうなっているか

福島労働局が公表した2026年9月分の雇用情勢では、県全体の有効求人倍率は1.25倍(季節調整値)でした。地域別では、いわき地域は1.09倍(原数値)で、県内の地域別の中では、最も低い水準です(会津と県中・県南は1.39倍、相双は1.35倍、県北は1.12倍)。

また、製造業の新規求人数は、県全体で前年の同じ月より22.4%(356人)増え、9か月連続で前年を上回っています。

ただし、これらの数字だけで、「いわきは人を採りやすい」とも「採りにくい」とも言えません。求人倍率は、職種や条件によって大きく違います。製造業の新規求人の数字も、県全体のものです。この記事で言えるのは、「製造業の求人が増えている」ことと、「地域の働き口の大半が大きな事業所にある」ことが、同じ採用市場の中で重なっている、ということです。

筆者の見方:同じ働き手を、同じ地域で探している

ここからは統計そのものではなく、筆者の見方です。

家族や近所づきあい、子どもを通じた付き合いの中で、工場で働く人の話を耳にする機会が多いと感じます。統計の数字は、そうした暮らしの中の印象と重なります。

就業者の5〜6人に1人が製造業で、その働き口の大半が大きな事業所にあるということは、業種を問わず、地域の中小企業は、大きな事業所と、同じ働き手の市場を共有している、ということです。大きな事業所が採用を増やせば、同じ人を探す競争相手になります。再編や縮小があれば、人が動き、採用の機会が生まれる場合もあります。どちらの方向でも、工場の動きは、人を通じて周りの企業に伝わります。

これは、良い悪いの話ではありません。大きな事業所があることは、地域にまとまった雇用と取引をもたらします。そのうえで、自社の採用や取引が、工場の動きと同じ市場でつながっていると知っておくことが、先を考える手がかりになります。

自社は、どうつながっているか

工場との関わりは、製造業だけのものではありません。中小企業の側から見ると、つながり方は、大きく三つに分けられます。分け方は統計ではなく、筆者の整理です。複数に当てはまる会社も多いはずです。

同じ働き手を探している。 製造業でなくても、人を採る会社は、地域の工場と同じ市場にいます。見ておきたいのは、ハローワークの求人や、福島労働局の毎月の「最近の雇用失業情勢」にある、いわき地域の求人倍率と製造業の求人の動きです。

工場で働く人が、お客さんである。 飲食、小売、サービス、住まいに関わる仕事では、工場で働く人とその家族が、日々のお客さんになっています。見ておきたいのは、近隣の工場の勤務や人の動きが、お店の混み方や時間帯に表れていないかです。

工場や、工場に納める会社と、取引している。 見ておきたいのは、取引先の発注の量と時期の変化です。工場の動きは、まず発注に表れます。

自社はどのつながりに当てはまるでしょうか。当てはまるものがあれば、そこで見ておきたい動きを、月に一度、確かめる習慣をつけてみてください。確かめる場所は、取引先との会話、ハローワークの求人、公的な統計や市の発表で十分です。

いま公表されている臨海部の動きについては、公表された資料をもとに、改めて整理する予定です。

参考資料

資料確認日:2026年10月30日。事業所数・従業者数は2024年6月1日時点、出荷額は2023年1〜12月の、従業者4人以上の事業所の数値です。従業者4〜29人の出荷額は、市全体の出荷額から30人以上の事業所の出荷額を差し引いた値です。いわき地域の有効求人倍率は、福島労働局の本文の記述によります。就業者の割合は、市の地区別の数字を筆者が合計して計算した値です(就業者総数には「分類不能」3,293人を含みます)。帝国データバンクの調査は回答133社の民間調査で、県内企業全体を代表する数字ではありません。「同じ働き手を探している」と、三つのつながり方の分け方は、筆者の見方・整理です。